view Paper/anatofuz.tex @ 81:1b1089b0aef5

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author Takahiro SHIMIZU <anatofuz@cr.ie.u-ryukyu.ac.jp>
date Fri, 30 Nov 2018 19:22:26 +0900
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\begin{document}

% Title,  Author %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
\title{CbCを用いたPerl6処理系}

%\affiliate{IPSJ}{情報処理学会}
\affiliate{IERYUKYU}{琉球大学工学部情報工学科}

\author{清水 隆博}{Takahiro SHIMIZU}{IERYUKYU}[anatofuz@cr.ie.u-ryukyu.ac.jp]
\author{河野 真治}{Shinji KONO}{IERYUKYU}[kono@ie.u-ryukyu.ac.jp]

%概要
\begin{abstract}
スクリプト言語であるPerl5の後継言語としてPerl6が現在開発されている.
Perl6は設計と実装が区分されており様々な処理系が開発されている.
現在主流なPerl6はRakudoと言われるプロジェクトである.
RakudoではPerl6自体をNQP(NotQuitPerl)と言われるPerl6のサブセットで記述し, NQPをVMが解釈するという処理の流れになっている.
このVMは任意のVMが選択できるようになっており,主に利用されているVMにCで書かれたMoarVMが存在する.
MoarVMはJITコンパイルなどをサポートしているが, 全体的な起動時間及び処理速度がPerl5と比較し非常に低速である.
この問題を解決するためにContinuation based C (CbC)という言語を一部用いてMoarVMの書き換えを行う.
CbCはCよりも細かな単位で記述が可能である為, 言語処理系の実装に適していると考えられる.
CbCに関する今までの研究においては, 言語処理系にCbCを利用した事例が少ない.
その為, 本稿ではCbCを言語処理系に用いた場合の利点やデバッグ手法などについても述べる.


\end{abstract}

\begin{jkeyword}
プログラミング言語,  コンパイラ, CbC, Perl6, MoarVM
\end{jkeyword}

\maketitle

% Body %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
\section{はじめに}
当研究室ではContinuation Based C(以下CbC)という言語を開発している.
CbCはCよりきめ細やかな単位で実装する事が可能である為, 言語処理系に応用すれば効率的な開発,実行が出来ると期待される.
現在活発に開発が進んでいる言語にPerl6がある.
Perl6はMoarVMと呼ばれるVMを中心としたRakudoと呼ばれる実装が現在の主流となっている.
Rakudoは処理速度が他のプログラミング言語と比較しても非常に低速である.
その為, 現在日本国内ではPerl6を実務として利用するケースは概ね存在しない.
Perl6の持つ言語機能や型システムは非常に柔軟かつ強力であるため, 実用的な処理速度に達すれば, 言語の利用件数が向上することが期待される.
その為本稿では, CbCを用いた言語処理系の実装の一例としてMoarVMをCbCで書き換えたCbCMoarVMを提案する.

CbCをMoarVMの実装として利用した場合, CbCの持つ機能によってMoarVMの高速化を中心とした改良に有益な効果があると推測出来る.
また, 現在までのCbCを用いた研究においては言語処理系への応用例が少ない.
従って, 本稿はCbCをスクリプト言語の実装に適応した場合, どのような利点やプログラミング上の問題点に遭遇するか, CbCの応用としての側面でも行う.
この際にCbCを用いた言語処理系のデバッグを行う際には, CbCを使わずに記述されたオリジナルの言語処理系との並列デバッグが必要となる.
従ってMoarVMにCbCを適応した場合, どのようにすれば並列デバッグが行えるかについても述べる.
本稿ではまずCbC, Perl6の特徴及び現在の実装について述べ, CbCで書き換えたMoarVMについてデバッグ手法も含め解説する.
研究にあたり, 得られたCbCを言語処理系に適応した場合の利点と欠点について述べ, 今後の展望について記載する.

\section{CbC}
\subsection{CbCの概要}
CbCは当研究室で開発しているプログラミング言語である.
Cレベルでのプログラミングを行う場合, 本来プログラマが行いたい処理の他にmallocなどを利用したメモリのアロケートやエラーハンドリングなどを記述する必要がある.
これらの処理をmeta computationと呼ぶ.
これらmeta computationと通常の処理を分離することでバグの原因がmeta computation側にあるか処理側にあるかの分離などが可能となる.
しかしC言語などを用いたプログラミングでmeta computationの分離を行おうとすると, それぞれ事細かに関数やクラスを分割せねばならず容易ではない.
CbCでは関数よりmeta computationを細かく記述する為にCodeGearという単位を導入した.
またCodeGearの実行に必要なデータをDataGearという単位で受け渡す.
CbCではCodeGear, DataGearを基本単位として記述するプログラミングスタイルを取る.

\subsection{CodeGearとDataGear}
CbCではCの関数の代わりにCodeGearを導入する.
CodeGearはCの関数宣言の型名の代わりに\_\_codeと書くことで宣言できる.
\_\_codeはCbCコンパイラの扱いはvoidと同じ型であるが, CbCプログラミングではCodeGearである事を示す識別子としての意味で利用する.
CodeGear間の移動はgoto文によって記述する.
\lstinputlisting[label=cbcexample,  caption=cbc\_example.cbc]{./src/cbc_example.cbc}
Code\ref{cbcexample}に示すCbCのコードではmain関数からcg1, cg2に遷移し, 最終的にdataの値が2となる.
CodeGear間の入出力の受け渡しは引数を利用し行う.

あるCodeGearの実行に必要なデータを, DataGearと呼ぶ.
DataGearにはCodeGearで実行される関数や変数などの情報を含む.
Code\ref{cbcexample}に示す例では, CodeGearに渡す引数datapが, 一種のDataGearと言える.

\subsection{軽量継続}
%TBD
CbCでは次のCodeGearに移行する際, Cのgoto文を利用する.
通常のCの関数呼び出しの場合, スタックポインタを操作しローカル変数などをスタックに保存する.
CbCの場合スタックフレームを操作せず, レジスタの値を変更せずそのまま次のCodeGearに遷移する事が可能である.
通常Sechemeのcall/ccなどの継続は現在の位置までの情報を環境として所持した状態で遷移する.
対してCbCは環境を持たず遷移する為, 通常の継続と比較して軽量であることから軽量継続であると言える.
CbCは軽量継続を利用するためレジスタレベルでのきめ細やかな実装が可能となっている.

\subsection{現在の実装}
CbCは現在主要なCコンパイラであるgcc及びllvmをバックエンドとしたclang上の2種類の実装が存在する.
gccはバージョン9.0.0に, clangは7.0.0に対応している.

%\subsection{CbCコンパイラのバグ}
%% 局所変数のポインタを握ったままgotoするとtail callにならない
%CbCコンパイラは現在も開発中であり幾つかのバグが発見されている.
%まずCodeGear内で宣言した局所変数のポインタを大域変数の配列などに保存した状態でgotoしてしまうとtail call最適化が無効となる.
%これはただの関数呼び出しになってしまう為, 直接的な被害はないもののCbCとしての利点が損なわれてしまう.
%%また本来は操作しないはずのスタック領域の操作が入ってしまうため, プログラマの意図と反したスタックポインタなのど操作が行われてしまいバグが発生する可能性が存在する.
%また, CbCの挙動としてCodeGearへの遷移時には軽量継続を行う為スタック領域の操作は行われないはずである.
%しかし, 現状は配列にCodeGearのアドレスを代入し, 間接的に軽量継続を行おうとすると, スタック領域の操作が通常の関数呼び出しの様に行われてしまう.
%%これは一部CbCコンパイラが利用しているgcc側のref-zoneという機能が影響していたが
%
\subsection{CbCとCの互換性}
CbCコンパイラはコンパイル対象のソースコードがCbCであるかどうかを判断する.
この際にCodeGearを利用していない場合は通常のCプログラムとして動作する.
その為今回検証するMoarVMのビルドにおいてもCbCで書き換えたソースコードがあるMoarVMと, 手を加えていないオリジナルのMoarVMの2種類を同一のCbCコンパイラでビルドする事が可能である.

またCからCbCへの遷移時に, 再びCの関数に戻るように実装したい場合がある.
その際は環境付きgotoと呼ばれる手法を取る.
これは\_CbC\_return及び\_CbC\_environmentという変数を使用する.
この変数は\_CbC\_returnが元の環境に戻る際に利用するCodeGearを指し, \_CbC\_environmentは復帰時に戻す元の環境である.
復帰する場合, 呼び出した位置には帰らず, 呼び出した関数の終了する位置に帰る.
\lstinputlisting[label=cbcreturn,  caption=環境付き継続の例]{./src/return.cbc}
Code\ref{cbcreturn}に示す例ではc\_funcから環境付き継続でcgに継続している.
通常c\_funcの返り値は-1であるが, cgから環境付き継続でmainに帰る為にcgから渡される1がtestの値となる.


\subsection{言語処理系におけるCbCの応用}
CbCを言語処理系, 特にスクリプト言語に応用すると幾つかの箇所に置いて利点がある.
CodeGearはコンパイラの基本ブロックに相当する.
その為従来のスクリプト言語では主にcase文で記述していた命令コードディスパッチの箇所をCodeGearの遷移として記述する事が可能である.
通常の言語処理系では命令コードディスパッチ部分は巨大なcase文となり, この部分を実装したCファイルが巨大化してしまう.
CodeGearを導入することで巨大なcase文をCodeGearとして分割する事が可能となり, 処理のモジュール化が可能となる.
また, CodeGearとCodeGear間の遷移は軽量継続で行われる為, レジスタレベルでの最適化も可能となる.

CbCは状態を単位として記述が可能であるため, 命令コードなどにおける状態を利用するスクリプト言語の実装は応用例として適していると考えられる.

\section{Perl6の概要}
この章では現在までのPerl6の遍歴及びPerl6の言語的な特徴について記載する.


\subsection{Perl6の構想}
Perl6は2002年にLarryWallがPerlを置き換える言語として設計を開始した.
Perl5の言語的な問題点であるオブジェクト指向機能の強力なサポートなどを取り入れた言語として設計された.
Perl5は設計と実装が同一であり, Larryらによって書かれたC実装のみだった.
Perl6は設計と実装が分離している.
言語的な特徴としては, 独自にPerl6の文法を拡張可能なGrammar, Perl5と比較した場合のオブジェクト指向言語としての進化も見られる.
またPerl6は漸進的型付け言語である.
従来のPerlの様に変数に代入する対象の型や, 文脈に応じて型を変更する動的型言語としての側面を持ちつつ, 独自に定義した型を始めとする様々な型に, 静的に変数の型を設定する事が可能である.

Perl6は言語仕様及び処理実装がPerl5と大幅に異なっており, 言語的な互換性が存在しない.
従って現在ではPerl6とPerl5は別言語としての開発方針になっている.
Perl6は現在有力な処理系であるRakudoから名前を取りRakuという別名がつけられている.

%\subsection{Rakudo以前の処理系}
%Perl6の実装は様々なものが実装された.
%まず2005年に唐鳳によってHaskellで実装されたPugs\cite{pugs}が登場した.
%
%その後Pythonとの共同動作環境としてParrot\cite{parrot}が実装された.
%ParrotはPASMと呼ばれるバイトコードを解釈可能なレジスタマシンである.
%ParrotでのPerl6の実装はNQP(NotQuitPerl)と呼ばれるPerl6のサブセットでPerl6を記述するというアイディアの基実装された.
%ParrotVMは2006年のversion8.1.0が最後のリリースである.
%こちらもPugsと同様に現在のPerl6プロジェクトでは歴史的な実装とされている.


\subsection{Rakudo}


RakudoとはNQP, NQPに基づくPerl6を基にしたプロジェクトである.
NQPとは, 以前のPerl6処理系であるParrot\cite{parrot}で, 構想に上がったPerl6のサブセットである.
RakudoがPerl6のコンパイラかつインタプリタであると考えても良い.
Rakudoは図\ref{fig:perl6construction}に示す構成になっている.
Rakudoにおけるコンパイラとは厳密には2種類存在する.
まず第1のものがPerl6, もしくはNQPをMoarVM, JVMのバイトコードに変換するNQPコンパイラである.
次にそのNQPが出力したバイトコードをネイティブコードに変換するVMの2種類である.
このVMは現在MoarVM, JavaVMを選択可能である.
Rakudo及びNQP projectではこのNQPコンパイラの部分をフロントエンド, VMの部分をバックエンド\cite{rani1}と呼称している.
NQPで主に書かれ, MoarVMなどNQPが動作する環境で動くPerl6のことをRakudoと呼ぶ.
Perl6はNQP以外にもNQPを拡張したPerl6自身で書かれている箇所が存在し, これはNQPコンパイラ側でMoarVMが解釈可能な形へ変換を行う.

\begin{figure}[ht]
     \begin{center}
     \includegraphics[width=70mm]{fig/perl6nqp.pdf}
     \end{center}
     \caption{Rakudoの構成}
    \label{fig:perl6construction}
\end{figure}

\subsection{MoarVM}
MoarVMとはRakudoで主に開発が進められているVMである.
Perl6及びNQPの専用処理系であり, レジスタマシンである.
MoarVMはNQPから与えられたMoarVMのバイトコードを実行する.

MoarVMのバイトコードインタプリタはsrc/core/interp.cで定義されている.
この中の関数MVM\_interp\_runで命令に応じた処理を実行する.
関数内では命令列が保存されているcur\_op, 現在と次の命令を指し示すop, Threadの環境が保存されているThreadcontextなどの変数を利用する.
命令実行は大きく二種類の動作があり, Cのgotoが利用できる場合はCode\ref{orig_macro}に示すMVM\_CGOTOフラグが立ちラベル遷移を利用する.
goto文が利用できない場合は巨大なcase文として命令を実行する.

ラベル遷移を利用する場合はCode\ref{oplabelsh}に示すラベルテーブルLABELSにアクセスし, テーブルに登録されているアドレスを取得し, マクロNEXTで遷移する.
Code\ref{dispatch_c}に示すno\_opは何もせず次の命令に移動する為, goto NEXT;のみ記述されている.

\lstinputlisting[label=orig_macro,  caption=interp.cのマクロ部分]{./src/orig_macro.c}
\lstinputlisting[label=oplabelsh,  caption=ラベルテーブルの一部分]{./src/oplabels.h}

\lstinputlisting[label=dispatch_c,  caption=オリジナル版MoarVMのバイトコードディスパッチ]{./src/dispatch.c}

%interp.cでは命令コードのディスパッチはマクロを利用したcur\_opの計算及びラベルの遷移, もしくはマクロDISPATCHが展開するswitch文で行われていた.
この為MoarVM内の命令コードに対応する処理は, 命令ディスパッチが書かれているCソースファイルの, 特定の場所のみに記述せざるを得ない.
その為命令コードのモジュール化などが行えず, 1ファイル辺りの記述量が膨大になってしまう.
また各命令コードに対応する処理は, ラベルジャンプもしくはswitch文に展開されてしまう為, Threaded Codeの実装を考えた場合, 大幅なコードの改修が要求される.
デバッグ時には, Cレベルでのデバッグ時にはアドレスと実際に呼ばれる箇所を確認する事に手間がかかる.

\subsection{NQP}

RakudoにおけるNQP\cite{nqp}は現在MoarVM, JVM上で動作する.
NQPはPerl6のサブセットであるため, 主な文法などはPerl6に準拠しているが幾つか異なる点が存在する.
NQPは最終的にはNQP自身でブートストラップする言語であるが, ビルドの最初にはすでに書かれたMoarVMのバイトコードを必要とする.
このMoarVMのバイトコードの状態をStage0と言う.%い, バイトコードが付随するソースディレクトリ内のディレクトリ名として設定されている.
Perl6の一部はNQPを拡張したもので書かれている為, Rakudoを動作させる為にはMoarVMなどのVM, VMに対応させる様にビルドしたNQPがそれぞれ必要となる.
現在のNQPではMoarVM, JVMに対応するStage0はそれぞれMoarVMのバイトコード, jarファイルが用意されている.
MoarVMのModuleLoaderはStage0にあるMoarVMのバイトコードで書かれた一連のファイルが該当する.


Stage0にあるファイルをMoarVMに与えることで, NQPのインタプリタが実行される様になっている.
これはStage0の一連のファイルは, MoarVMのバイトコードなどで記述されたNQPコンパイラのモジュールである為である.
NQPのインタプリタはセルフビルドが完了すると, nqpというシェルスクリプトとして提供される.
このシェルスクリプトは, ライブラリパスなどを設定してMoarVMの実行バイナリであるmoarを起動するものである.
%NQPは6modelと呼ばれるオブジェクトモデルを採用としている.%が, これを構築する為に必要なNQPCORE,正規表現系のQRegex,MoarVMのModuleLoaderなどがMoarVMBytecodeで記述されている.これらMoarVMBytecodeの拡張子は.MoarVMである.
%MoarVMに対してStage0のディレクトリにライブラリパスを設定し, nqp.MoarVMを実行させることでnqpの対話型環境が起動する.

\begin{figure}[ht]
     \begin{center}
     \includegraphics[width=70mm]{fig/tgraph.pdf}
     \end{center}
     \caption{NQPのビルドフロー}
    \label{fig:nqpbuild}
\end{figure}

NQPのビルドフローを図\ref{fig:nqpbuild}に示す.
RakudoによるPerl6に処理系はNQPにおけるnqpと同様に, moarにライブラリパスなどを設定したperl6というシェルスクリプトである.
このperl6を動かすためにはself buildしたNQPコンパイラが必要となる.
その為にStage0を利用してStage1をビルドしNQPコンパイラを作成する.
Stage1は中間的な出力であり, 生成されたNQPファイルはStage2と同一であるが, MoarVMのバイトコードが異なる.
Perl6では完全なセルフコンパイルを実行したNQPが要求される為, Stage1を利用してもう一度ビルドを行いStage2を作成する.

Perl6のテストスイートであるRoast\cite{roast}やドキュメントなどによって設計が定まっているPerl6とは異なりNQP自身の設計は今後も変更になる可能性が開発者から公表されている.
現在の公表されているNQPのオペコードはNQPのリポジトリ\cite{nqpopcode}に記述されているものである.


%\subsection{Rakudo Perl6}
%Rakudo実装上におけるPerl6はRakudo Perl6と呼ばれているGitリポジトリで管理されているプログラムのことである.
%前述した通りRakudo Perl6はPerl6のサブセットであるNQPを用いて記述されている.
%従ってyaccやlexと言ったPerl5の文字解析, 構文解析に利用していたプログラムは利用せず, NQP側で構文定義などを行っている.
%NQPはNQP自身でBootstrappingされている為, Rakudo Perl6のbuild時にはNQPの実行環境として要したVM, それに基づいてbuildしたNQPがそれぞれ必要となる.
%
%
%
%\subsection{現在のPerl6}
%Perl6の言語仕様\cite{perl6design}とその時点での実装状況をまとめた公式ドキュメント\cite{perl6doc}は分離している.
%従来は言語仕様は自然言語の仕様書であったが, 現在はテストスイートであるRoast\cite{roast}そのものと定義されている.
%現在のPerl6の仕様を読む場合Roastを確認し, 現在Rakudo上に実装されている機能を見る場合は公式ドキュメントを確認する必要がある.
%
\subsection{処理速度}
現在のPerl6が他のプログラミング言語と比較した場合どのような違いがでるのか計測した.
macOSの/var/log/system.logファイルから正規表現でログ中のプログラムが書き込んだ回数を個別に数え上げるというものである.
今回はファイルを231Kと3GBの二種類用意し, どの様な違いが出るのか測定した.

測定した環境は次の通りである.
今回は現在広く使用されているスクリプト言語であるPerl5を計測対象に追加した.
またRakudoの処理系による処理時間の差を計測する為にMoarVM, JVMに構築したPerl6の処理速度を計測を行った.
JVM自体の処理時間とRakudoを構築したJVMの速度の差を見るために, 同様のプログラムをJava10でも行った.

\begin{itemize}
  \item Perl6 (MoarVM) ver.2018.04.01
  \item Perl6 (JVM) 2018.06-163-g612d071b8 built on JVM
  \item Java 10
  \item Perl5
\end{itemize}

測定した結果を表\ref{tbl001}に示す. 測定結果の単位は秒である.

\begin{table}[htb]
\begin{tabular}{|l|c|c|c|c|c|} \hline
   FileSize & MoarVM & Perl6 on JVM &  Java & Perl5\\  \hline
   231K & 0.86 & 21.48  & 0.27 & 0.04 \\ 
   3G &  2331.08 & 1665.56 &  48.85 & 41.35\\ \hline
\end{tabular}
\caption{ログファイル処理時間の計測結果}\label{tbl001}
\end{table}

計測結果からファイルサイズが小さい場合はMoarVMよりJVMに乗せたPerl6が低速であるが, ファイルサイズが大きい場合はJavaのJITが働くためMoarVMより高速に動いていると推測できる.


%# 計測(3GB)

%* Perl5c
%    * 41.35s
%* Ruby
%    * 574.52s
%* Python
%    * 101.16s
%* Java
%    * 48.85s
%* Perl6(Moar)
%    * 2331.08s
%* Perl6(JVM)
%    * 1665.56s

%# 参考(231K)

%* Perl5
%    * 0.04s
%* Ruby
%    * 0.15s
%* Python
%    * 0.06s
%* Java
%    * 0.27s
%* Perl6(Moar)
%    * 0.86s
%* Perl6(JVM)
%    * 21.48s


\section{CbCによるMoarVM}
この章では改良を行ったPerl6処理系であるMoarVMについて述べる.
今回改良を行ったMoarVMは2018.04.01であり, 利用したNQPは2018.04-3-g45ab6e3バージョンである.
\subsection{方針}
%Rakudo処理系の処理速度はNQPコンパイラ側の処理速度, 実行環境であるMoarVMなどのVM環境の主に2種類が影響していると考えられる.
%NQP側はNQPで書かれている為, NQPの記述を修正すれば高速化することも考えられるが, 今回はVM側の処理系に着目した.
%Rakudoが動作するVMは複数存在するが, MoarVMが現在主流の処理系である.
%MoarVM自身はCで記述されているため, CbCを導入する事が可能である.
%CbCの持つCodeGearや軽量継続を導入する事で, 通常のMoarVMと比較してよりきめ細やかな実装が出来ると推測される.
%CodeGearをThreadedCodeなどに応用する事で, MoarVMの高速化が見込める.
%また, CbCに関する今までの研究においては, CbCを言語処理系に応用した例が少ない為, CbCを言語処理系に適応した場合の挙動などを確認したい.
%その為, 本稿ではCbCをMoarVMに導入したCbCMoarVMを実装する.
%

MoarVMの中心は, バイトコードを解釈する, バイトコードインタプリタ部分である.
その為CbCを用いて, MoarVMのバイトコードインタプリタ部分を記述し直し, CbCMoarVMとして実装する.
CbCのCodeGearはコンパイラの基本ブロックに該当する.
従ってMoarVMにおける基本ブロックの箇所をCodeGearに書き換える事が可能である.

\subsection{MoarVMのバイトコードのディスパッチ}
%MoarVMのバイトコードインタプリタはsrc/core/interp.cで定義されている.
%この中の関数MVM\_interp\_runで命令に応じた処理を実行する.
%関数内では命令列が保存されているcur\_op, 現在と次の命令を指し示すop, Threadの環境が保存されているThreadcontextなどの変数を利用する.
%命令実行は大きく二種類の動作があり, Cのgotoが利用できる場合はCode\ref{orig_macro}に示すMVM\_CGOTOフラグが立ちラベル遷移を利用する.
%それ以外の場合は巨大なcase文として命令を実行する.
%
%ラベル遷移を利用する場合はCode\ref{oplabelsh}に示すラベルテーブルLABELSにアクセスし, テーブルに登録されているアドレスを取得し, マクロNEXTで遷移する.
%Code\ref{dispatch_c}に示すno\_opは何もせず次の命令に移動する為, goto NEXT;のみ記述されている.

%このラベルテーブルの中身はラベルが変換されたアドレスであるため, 実際に呼ばれている命令コードの名前はデバッガレベルでは確認できない.
%巨大なcase文として実行された場合, 実行時間が遅いだけでなく, ラベル遷移と共存させて記述を行っている為Cのソースコードにおける可読性も低下する.


%\lstinputlisting[label=orig_macro,  caption=interp.cのマクロ部分]{./src/orig_macro.c}
%\lstinputlisting[label=oplabelsh,  caption=ラベルテーブルの一部分]{./src/oplabels.h}
%
%\lstinputlisting[label=dispatch_c,  caption=オリジナル版MoarVMのバイトコードディスパッチ]{./src/dispatch.c}

interp.cでは命令コードのディスパッチはマクロを利用したcur\_opの計算及びラベルの遷移, もしくはマクロDISPATCHが展開するswitch文で行われていた.
このディスパッチ方法では, ラベルジャンプや巨大なcase文として記述する必要があり, ファイルが冗長になるなどの問題が生じる.

CbCMoarVMではこの問題を解決するために, それぞれの命令に対応するCodeGearを作成し, 各CodeGearの名前を要素として持つCbCのCodeGearのテーブルを作成した.
このCodeGearのテーブルを参照するCodeGearはcbc\_nextであり, この中のマクロNEXTはinterp.cのマクロNEXTをCbC用に書き直したものである.

\lstinputlisting[label=cbc_dispatch_c,  caption=CbCMoarVMのバイトコードディスパッチ]{./src/cbc-interp-next.cbc}


Code\ref{cbc_dispatch_c}に示す変更例では, マクロNEXTなどの引数に変数iを導入している.
このiとは, バイトコードインタプリタ内で利用するMoarVMのレジスタ情報などが,格納された, 構造体へのポインタである.
iが示す構造体INTER,及びiの型であるポインタINTERPはCode\ref{interp}に示すように宣言している.
これはマクロ内部で現在の命令を示すopや命令列cur\_opなどにアクセスする必要があるが, CbCのCodeGearを適応した場合に元のマクロの記述方法ではアクセスできない為に導入したものである.
\lstinputlisting[label=interp,  caption=MoarVMの情報を格納した構造体INTER]{./src/INTERP.h}

\subsection{命令実行箇所のCodeGearへの変換}
ラベルテーブルやcase文のswitch相当の命令実行箇所をCbCに変換し, CodeGearの遷移として利用する.
interp.cはCode\ref{dispatch_c}に示す様にマクロOPを利用して記述されている.


OP(.*)の.*に該当する箇所はバイトコードの名前である.通常このブロックにはLABELから遷移, またはswtich-caseによって分岐する為, バイトコードの名前は配列LABELSの添字に変換されている.
そのため対象となるCodeGearをLABELSの並びと対応させ, Code\ref{cbcoplabelsh}に示すCodeGearの配列CODESとして設定すればCodeGearの名前は問わない.
今回はCodeGearである事を示す為に接頭辞としてcbc\_をつける.

\lstinputlisting[label=cbcoplabelsh,  caption=CodeGear配列の一部分]{./src/oplables-cbc-codes.h}

Code\ref{cbc_codesegs_c}に示す, 命令の実行処理でMoarVMのレジスタであるreg\_baseや命令列cur\_opなどの情報を利用しているが, これらはMVM\_interp\_run内のローカル変数として利用している.
ラベルを利用しているオリジナル版では同一関数内であるためアクセス可能であるが, CodeGear間の移動で命令を表現するCbCではアクセスできない.
その為Code\ref{interp}に示す様に, インタプリタの情報を集約した構造体interを定義する.
この構造体へのポインタであるINTERP型の変数iをCodeGearの入出力として与える.
CodeGear内ではINTERPを経由することでインタプリタの各種情報にアクセスする.
CodeGear間の遷移ではレジスタの値の調整は行われない為, 入力引数を使ってレジスタマッピングを管理できる.
その為INTERPのメンバであるMoarVMのレジスタそのものをアーキテクチャのレジスタ上に乗せる事が可能である.

命令実行中のCodeGearの遷移を図\ref{fig:perl6cbcinter}に示す.
この中で実線で書かれている部分はCbCのgoto文で遷移し, 波線の箇所は通常のCの関数呼び出しとなっている.

現在のCbCMoarVMは次の命令セットのディスパッチをcbc\_nextが行っている.
その為cbc\_nextから命令コードに対応するCodeGearに継続し, CodeGearからcbc\_nextに継続するサイクルが基本の流れである.
CodeGear内からCの関数は問題なく呼ぶ事が可能であるため, Cの関数を利用する処理は変更せず記述する事ができる.
また変換対象はswitch文であるため, breakせず次のcaseに移行した場合に対応するように別のCodeGearに継続し,その後cbc\_nextに継続するパターンも存在する.

\lstinputlisting[label=cbc_codesegs_c,  caption=CbCMoarVMのバイトコードに対応するCodeGear]{./src/cbc_codesegs.cbc}

\begin{figure}[ht]
     \begin{center}
     \includegraphics[width=70mm]{fig/cbc_next.pdf}
     \end{center}
     \caption{CbCにおけるMoarVMバイトコードインタプリタ内の状態遷移}
    \label{fig:perl6cbcinter}
\end{figure}

バイトコードの数は膨大である為, すべてを手作業で変換する事は望ましくない.
従ってPerlScriptを用いてinterp.cからCbCのCodeGearを自動生成するスクリプトを作成した.
このスクリプトでは以下の修正手続きを実行する.

\begin{itemize}
  \item OP(.*)の.*部分をCodeGearの名前として, 先頭にcbc\_をつけた上で設定する.
  \item cur\_opなど構造体INTERのメンバ変数はポインタiから参照するように修正する
  \item GC対策のためマクロMVMROOTを使い局所変数のポインタをスタックに積む箇所は, 局所変数をstatic化する
  \item 末尾のgoto NEXTをgoto cbc\_next(i)に修正する
  \item case文で下のcase文に落ちている箇所は, case文に対応するCodeGearに遷移する様にgoto文を付け加える
\end{itemize}


上記Code\ref{cbc_codesegs_c}ではcbc\_const\_i8などがcase文の下のcase部分に該当するcbc\_const\_i64に遷移する様に変換されている.
またcbc\_pushcompscではMVMROOTに局所変数scを渡している為, これをstaticで宣言し直している.

現在CbCで記述されたOSであるGearsOSにはInterfaceが導入されている.
これはJavaのinterface, Haskellの型クラスに該当する概念であり, 次のCodeGearにInterface経由で継続する事が可能である.
Interfaceは現在のCbCMoarVMの実装には用いていないが, 今後ThreadedCodeの実装を行うにあたり命令コードディスパッチ箇所に導入を検討している.


\section{MoarVMのデバッグ}

MoarVM自体のデバッグはMoarVMのリポジトリにテストコードが付随していない為単体では実行不可能である.
また, CbCを用いて言語処理系の改良時を行う際に, 処理系のデバッグを行う場合は, CbCを用いないオリジナルの処理系との並列デバッグが必要となる.
MoarVM自体にはデバッグを支援するツールが存在しない為, MoarVM自体のデバッグ方法や, CbCを用いた処理系との並列デバッグについて独自の手法を考案する必要がある.
本稿ではMoarVMのデバッグにおけるCデバッガの使用方法とMoarVMのテスト方法についても示す.

\subsection{MoarVMのバイトコードのデバッグ}
MoarVMの実行バイナリであるmoarに対して, MoarVMのバイトコードをdumpオプションを付けて読み込ませると, バイトコードがMoarVMによるアセンブリコードとして出力される.
しかしこれはMoarVMが実行したバイトコードのトレースではなく, MoarVMのバイトコードを変換したものに過ぎない.
また, 明らかに異なる挙動を示すオリジナルのMoarVMと, CbCで書き換えたCbCMoarVM両者のmoarを利用しても同じ結果が返ってきてしまう.
そのため今回のMoarVMのバイトコードインタプリタの実装のデバッグにはこの方法は適さない.
従って実際に実行した命令を確認するにはgdbなどのCデバッガを利用してMoarVMを直接トレースする必要がある.

CbC側はCode\ref{cbc_b}に示す様にcbc\_nextにbreak pointを設定する.
オリジナル側は次のオペコードの設定のマクロにダミーの関数を呼び出すように修正し, そこにbreak pointを設定する.
CbC側ではCodeGearの名前をデバッガ上で直接確認できるが, オリジナル版はLABLEの配列の添え字から自分でどのオペコードに対応しているかをデバッガの外で探す必要がある.

添字を確認するためにはCode\ref{orig_b}に示すようにオリジナルのMoarVMの場合cur\_opの値をMVMuint16のポインタでキャストし, これが指す値を出力する.
break pointを掛けているダミー関数ではcur\_opにアクセスする事が出来ない為, スタックフレームを一つupする必要がある.
\lstinputlisting[label=cbc_b,  caption=CbCMoarVMに対してのbreak point設定]{./src/cbc_breakpoint.txt}
\lstinputlisting[label=orig_b,  caption=オリジナル版MoarVMに対してのbreak point設定]{./src/origin_b_set.txt}


\subsection{MoarVMの並列デバッグ手法}
しかしMoarVMが実行する命令は膨大な数がある.
その為gdbなどのCデバッガで, オリジナルのMoarVMと, 一部をCbCで記述したCbCMoarVMの並列デバッグを手動で全て行うことは困難である.
Perlなどのスクリプトを用いて自動的に解析したいため, ログを残す為にscriptコマンドを実行した状態でgdbを起動する.
トレースでは実行した命令名のみ取得できれば良い為, Code\ref{cbc_b}, \ref{orig_b}でbreak pointにcommandとして設定している様に,設定されたcur\_opの値を出力し続けるのみの動きを導入する.

実際に実行したログ・ファイルの一部をそれぞれCode\ref{debug_origmoar}, \ref{debug_cbcmoar}に示す.
\lstinputlisting[label=debug_origmoar,  caption=オリジナル版MoarVMのバイトコードのトレース]{./src/origin_breakpoint.txt}
\lstinputlisting[label=debug_cbcmoar,  caption=CbCMoarVMのバイトコードのトレース]{./src/trace_cbc.txt}

オリジナル版では実際に実行する命令処理はラベルに変換されてしまう為名前をデバッガ上では出力できないが, CbCでは出力する事が可能である.
CbCとオリジナルのCODES, LABELの添字は対応している為, ログの解析を行う際はそれぞれの添字を抽出し違いが発生している箇所を探索する.
これらはscriptコマンドが作成したログを元に異なる箇所を発見するスクリプトを用意し自動化する.(Code \ref{logs2})
\lstinputlisting[label=logs2, caption=バイトコードの差分検知の一部分]{./src/logs2.txt}

違いが生じている箇所が発見できた場合, その前後のCodeGear及びディスパッチ部分にbreak pointをかけ, それぞれの変数の挙動を比較する.
主にcbc\_return系の命令が実行されている場合は, その直前で命令を切り替えるcbc\_invoke系統の命令が呼ばれているが,この周辺で何かしらの違いが発生している可能性が高い.
また主に次のCodeGearに遷移する際にCbCコンパイラのバグが生じている可能性もある為, アセンブラレベルの命令を確認しながらデバッグを進めることとなる.

\subsection{MoarVMのテスト方法}

MoarVMは単体で実行する事が不可能である.
またNQPのリポジトリに付随するテストはNQPで書かれている.
従ってNQPを解釈可能な, NQPのセルフビルド時に生成されるシェルスクリプトnqpが必要である.
その為, シェルスクリプトnqpを生成出来ない場合, MoarVMのテストを行う事が出来ない.
CbCMoarVMはNQPのセルフビルドが現時点では達成出来ない為, 通常ではテストが実行出来ない.
しかし, MoarVMのバイナリmoarはMoarVMのバイトコードを読み込むことはNQPをセルフビルドしなくとも可能である.

その為, 正常に動作しているMoarVMのバイナリmoarとnqpを用意し, このnqp側からMoarVMのバイトコードにNQPで記述されたテストを変換する.
変換されたMoarVMのバイトコードはバイナリmoarに渡す事で実行可能であり, テストを行う事が出来る.

%\subsection{CbCコンパイラによるバグ}
%これまでのCbCに関する研究においては, 複数個の入出力をCodeGearに与えるユースケースで利用していた.
%CbCコンパイラ自身はそれぞれ用意したテストスイートを通化するものの, MoarVMの様な巨大なプロジェクトのCodeGearをコンパイルを実行する場合, 予期せぬバグが発生した.
%主にCodeGear間のgotoにおけるtail callフラグの除去や, DataGearとして渡している構造体の変数のアドレスがスタックポインタの値より上位に来てしまい, 通常のCの関数をcallした際にローカル変数の領域がDataGearのアドレスの周辺を利用してしまう.
%その為DataGearの構造体の値が書き換わり, CからDataGearにreturnした際にDataGearの構造体が破壊されるバグである.
%このバグは先程の並列デバッグを行いながらプログラムカウンタや変数の動きをトレースする事などで発見することが出来る.
%現状ではCbCコンパイラがプログラマの意図と反する挙動を取るためCbCコンパイラのバグを回避するプログラミングが要求されている.
%本来コンパイラ側のバグを回避するプログラミングをプログラマに要求する事は好ましくない.
%従ってCbCコンパイラ自身の信頼性を向上させる事も今後の課題となっている.
%


\section{CbCMoarVMの利点と欠点}
MoarVMの様な巨大なスクリプト言語処理系にCbCを適応した所現在までに複数の利点と欠点が発見された.
本章ではまず利点を述べ, 次に現段階でのCbCを適応した場合の欠点について考察する.


オリジナルのMoarVMでは命令コードに対応する箇所はラベルジャンプ, もしくはswitch文で実装されていた.
その為同じCファイルに命令コードの実行の定義が存在しなければならない.
今後MoarVMに新たなバイトコードが導入されていく事を考えるとinterp.cが巨大になる可能性がある.
関数単位での処理の比重が偏る事に加え, 
switch文中に書かれている処理は他の関数から呼ぶ事が出来ないため, 余計な手間がかかる箇所が発生すると考えられる.


CbCMoarVMの場合, CodeGearとして基本ブロックを記述出来る為オリジナルのMoarVMの様にswtich文のブロック中に書く必要性が無くなる.
その為類似する命令系をコード分割し, モジュール化する事が可能である.
またCbCはgoto文で遷移する以外は通常のCの関数と同じ扱いをする事が可能である.
従ってCodeGear内部の処理を別の箇所から使用する事も可能となる為再利用性も向上する.


ThrededCodeを実装する場合, 通常命令ディスパッチの箇所と, 実際に実行される命令処理を大幅に変更しなければならない.
CbCを用いた実装の場合, 命令処理はただのCodeGearの集合である.
その為CodeGearをThrededCodeに対応した並びとして選択する事ができれば命令処理部分の修正をほぼせずにThrededCodeを実現する事が可能である.

またCodeGearはバイトコードレベルと同じ扱いができるため, ThrededCodeそのものを分離して最適化をかける事が可能である.
これもCodeGearが関数単位として分離できる事からの利点である.


MoarVMのバイトコードインタプリタの箇所はオリジナルの実装ではラベルジャンプを用いて実装されている.
その為, 直接ラベルにbreak pointをかける事が出来ない.
作業者がデバッガが読み込んでいるCソースコードの位置を把握し, 行番号を指定してbreak pointを設定する必要があった.

CbCMoarVMの場合, CodeGear単位でバイトコードの処理単位を記述している為, 通常の関数と同じく直接CodeGearにbreak pointをかける事が可能である.
これはCプログラミングの関数に対してのデバッグで, 状態ごとにbreak pointをかける事が出来ることを意味する.
通常のC言語で言語処理系を実装した場合と比較して扱いやすくなっていると言える.
さらにラベルテーブルでの管理の場合, 次のバイトコード箇所は数値でしか確認できず, 実際にどこに飛ぶのかはラベルテーブル内と数値を作業者が手作業で確認する必要があった.
スクリプトなどを組めば効率化は出来るがデバッガ上で完結しない為手間がかかる.
CbC実装ではCODESテーブル内は次のCodeGearの名前が入っている為, 数値からCodeGearの名前をデバッガ上で確認する事が出来る


現在MoarVMはLuaJit\cite{luajit}を搭載しJITコンパイルを行っている.
LuaJITそのものをCbCに適応させるわけではないが, CbCのABIにJITされたコードを合わせる事が可能であると推測できる.
% \subsection{単純なループ処理の測定}
% 簡単な例題としてfor文を用いて100000回ループさせ, ある変数をインクリメントするというプログラムを作成する.
% 今回の評価対象としてPerl6は2018年4月にリリースされたMoarVM, NQP,Rakudoの実装を用いる.
% Perl5は5.26.2を利用した.

% \begin{table}[htb]
% 	\begin{tabular}{|c|c|c|} \hline
% 	 ループ回数 & Perl5 (sec) & Perl6(sec) \\  \hline \hline	 
% 	 1000000 & 0.131 & 1.444 \\ \hline
% 	 10000000 & 0.131 & 1.444 \\ \hline
% 	 100000000 & 3.258 & 124.69 \\ \hline
% 	\end{tabular}
% \end{table}
しかし, 言語処理系は広く使われる為に著名なOSSなどを利用して開発するのが望ましいが, CbCプロジェクトの認知度が低いという現状がある.

また, CbCコンパイラが現在非常にバグを発生させやすい状態になっている.
CbCコンパイラはgccとllvm/clang上に実装している為, これらのアップデートに追従する必要がある.
しかしコンパイラのバージョンに応じてCbCで利用するコンパイラ内のAPIが異なる場合が多く, APIの変更に伴う修正作業などを行う必要がある.

CbCMoarVMではCからCodeGearへ, CodeGearからCへの遷移などが複数回繰り返されているが, この処理中のCodeGearでのtail callの強制が非常に難関である.
tail callの強制には関数定義の箇所や引数, スタック領域のサイズ修正などを行う必要がある.
現在のCbCコンパイラのバグではCodeGear内部での不要なスタック操作命令を完全に排除しきれていない.

またCodeGearからCに帰る場合, 環境付き継続を行う必要がある.
Cの関数の末尾でCodeGearを呼び出している場合など環境付き継続を使用しなくても良いケースは存在するが, 頻繁にCとCbCを行き来する場合記述が冗長になる可能性はある.

\section{Threaded Code}
現在のMoarVMは次の命令をバイトコードからディスパッチし決定後, ラベルジャンプを利用し実行している.
この処理ではディスパッチの箇所にコストが掛かってしまう.
CbCをMoarVMに導入することで, バイトコード列を直接サブルーチンコールの列に置き換えてしまう事が可能である.
これはCbCが基本ブロックの単位と対応している為である.
CbCでは現在ディスパッチを行うCodeGearであるcbc\_nextを利用しているが, Threaded Codeを実装するにあたり,
cbc\_nextと次のCodeGearに直接遷移するcbc\_fixt\_nextの実装を予定している.

また段階的に現在8バイト列を1命令コードとして使用しているが, これを16バイトなどに拡張し2命令を同時に扱えるように実装する事なども検討している.

%CbCはCodeGearで末尾最適化(Tail call optimization)を行う.
%これはCodeGearは必ず関数呼び出しではなくgotoで次の状態に遷移する為にスタック領域の操作が必要とならない為である.
%現在のCbCコンパイラの実装ではCodeGearからCの関数に戻る場合は末尾最適化を切り, CodeSegment間の遷移では末尾最適化が行われる.
%末尾最適化を応用することでContinuation-passingスタイルのThreaded Codeの実装が可能となる.\cite{threadedcode}
%またCodeGear自体を直接次の遷移先として設定することも可能であるため, CbCならThrededCodeを実装するアプローチが複数検討出来る.

%現在のCbCMoarVMは次の命令セットのディスパッチをcbc\_nextというCodeGearで処理している.
%これは元のMoarVMの命令ディスパッチで行われる現在のオペコードを示すcur\_opと命令列opの操作及び次のラベルに遷移するマクロに該当する.
%CbCMoarVMではラベルに対しての遷移の代わりにMoarVMの命令のCodeGearの集合体である配列CODESにアクセスし, その要素であるCodeSegmentに対して遷移する形を取っている.
%この一連の処理がオーバーヘッドになる為, 今後はcbc\_fixt\_nextというCodeGearを導入し直接次の命令に該当するCodeSegmentへgotoする様に実装する予定である.

Perl5においてはperlccというモジュールが開発されている.
これはPerl5内部で利用しているPerlバイトコードを, PerlのC APIであるXS言語の様なCのソースファイルに埋め込み,それをCコンパイルでコンパイルするというものである.
perlccを利用することでPerlインタプリタが無い状況でも可動するバイナリファイルを作成する事が可能である.
しかしperlccはPerlスクリプトが複雑になるほど正確にCに移植を行う事が出来ず, 現在ではPerlのコアモジュールから外されている.
perlccはPerlのバイトコードをCへの変換のみ行う為, Cで実装されているPerl経由で実行した場合と処理速度はほぼ変わらない.
またperlccで生成されたCのソースコードは難解であり, これをデバッグするのが困難でもある.
MoarVMでthreaded codeを実現出来た場合, その箇所のみCbCプログラムとして切り出す事が可能である為perlccと似たツールを作成することも可能である.
C言語でもperlccの様に内部構造をCの関数化すればThrededCodeの様な物を構築できるが, CbCと比較して処理の単位が明確ではない為高速化は見込めない.
また, CbCのCodeGearは基本ブロックそのものである為, CbCプログラムとして切り出す場合, CodeGearをそのまま出力すればよく, 生成されたCbCプログラム自体もperlccと比較して扱いやすい.
CbCを用いたThrededCodeでperlccの様なツールを作成した場合, CodeGearの単位が正常に機能すればCbCのCodeGearがThrededCodeをより効率化出来ると推測できる.


CbCのCodeGearはgoto文で遷移するため, 次のCodeGearが一意に決定している場合Cコンパイラ側でインライン展開する事が可能である.
CodeGearがインライン展開される限界については別途研究する必要があるが, CbCを利用した場合CodeGear単位でインライン展開が可能である.
その為, ThrededCodeを実装する場合に決定した次のCodeGearをインライン展開する事が可能である.
従ってThreadedCodeを実現するにあたり新たな処理系を開発する必要がなく, 既存の資源を利用してThreadedCodeが実現出来る.
これを繰り返す事でperlccなどと比較してより高速化したThrededCodeが実現できる.

CbCを使わずにバイトコードディスパッチの箇所を改良する際に, 関数ポインタを利用する場合も考えられる.
この場合は, 関数ポインタの配列を作成し, 次の命令コードに対応する関数をポインタ経由で実行する.
Cの関数ポインタを利用した場合, CbCと同様に処理のモジュール化は可能である.
しかし, CbCとは違い軽量継続ではなく関数呼び出しで処理をする為, Cのスタックフレームが非常に巨大になる.
Cの関数呼び出しのコストから, 通常のcase文やラベルジャンプを利用した場合と速度差的に優位にならない.
また, ThreadedCodeの観点では, 命令列に対応した関数をThreadedCode用に大幅に修正する必要がある.
その為, CbCの様に関数そのものの並びでThreadedCodeに対応させることは出来ない.

\section{まとめ}
本稿ではCbCによってPerl6の処理系であるMoarVMインタプリタの一部改良とその手法を示した.
CbCMoarVMではオリジナルのMoarVMと比較して以下の様な利点が見られた.

\begin{itemize}
  \item CodeGear単位で命令処理を記述する事が可能となり, モジュール化が可能となった.
  \item ThreadedCodeを実装する際に効率的に実装ができる見込みが立った.
  \item CodeGearを導入した命令単位での最適化が可能となった.
  \item break pointを命令の処理単位でかける事が可能となった.
  \item 現在は命令処理部分をCodeGearに書き換えたのみである為, ラベルを利用した場合と比較して速度としては同等である.
\end{itemize}

今後CbCでの開発をより深く行っていくにあたり, CbCコンパイラそのものの信頼性を向上させる必要がある.
MoarVMの開発を行うにあたり新たに発見された複数のバグを修正し, より安定するコンパイラにする為に改良を行う.

現在CbCMoarVMで直接バイトコードを入力した場合のNQPのテストはJVMなどのテストを除く中で80\%パスする.
また数値の計算と出力などの簡単なNQPの例題を作成し, オリジナルのNQP,MoarVMでバイトコード化したものを入力した際も正常に動作している.
しかしNQPのセルフビルドは現在オブジェクトの生成に一部失敗している為成功していない.
今後はさらに複雑な例題やNQPのセルフビルド, Perl6の動作を行っていく.

MoarVMではGCからオブジェクトを守る為にMVMROOTというマクロを利用し, 局所変数のポインタをスタックに登録する処理を行っている.
GCの制御を効率的に行えば本来は必要ない処理であり, 実行するとCodeGearの優位性が損なわれてしまう.
従ってMoarVMのGCの最適化を行う.

また高速化という面では, Perlの特徴である正規表現に着目し, 正規表現の表現のみ高速で動く最適化の導入なども検討している.
他にrakudoのコンパイラ系統からCbCのコードを直接生成させ, それをllvmでコンパイルすることによってLLVMの最適化フェーズを得て
高速化することも可能であると推測できる.

Perl6の開発は非常に活発に行われている為, CbCMoarVMの最新版の追従も課題となっている.
現在はinterp.cからPerlスクリプトを用いて自動でCbCのCodeGearを生成している.
今後の開発領域の拡大と共により効率的にCbCコードへの自動変換も複数のCコードに対応する様に開発を行っていく.

%å\subsection{MoarVMの処理流れ}
%MoarVMはC言語で実装されており, Perl5で記述されたConfigure.plを


% BibTeX を使用する場合 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
\nocite{*}
\bibliographystyle{ipsjsort}
\bibliography{reference}

\end{document}