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author riono <e165729@ie.u-ryukyu.ac.jp>
date Thu, 07 May 2020 21:46:04 +0900
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\def\Underline{\setbox0\hbox\bgroup\let\\\endUnderline}
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\lstset{
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\renewcommand{\lstlistingname}{Code}

\begin{document}

\title{Multicast Wifi VNCの実装と評価}

\affiliate{KIE}{琉球大学大学院理工学研究科情報工学専攻}
\affiliate{IE}{琉球大学工学部工学科知能情報コース}

\author{安田 亮}{Ryo Yasuda}{KIE}[riono210@cr.ie.u-ryukyu.ac.jp]
\author{河野 真治}{Shinji Kono}{IE}[kono@ie.u-ryukyu.ac.jp]

\begin{abstract}
講義やゼミではPC画面で用意した資料を見ながら進行することが多い。PCごとにアダプターや解像度が異なっており、正常にPC画面を表示できない場合がある。
当研究室で開発しているTreeVNCは、発表者のPC画面を参加者のPCに表示する画面配信システムである。TreeVNCの画像共有は、送信するデータ量が多いために有線LANでの接続に限られている。
本稿では無線LANでもTreeVNCを利用可能にするため、Wifi上にシステム制御用の従来の木構造と、画像データ送信用のMulticastの両方を構築を行う。
Multicastでは、サーバから送信された画像データUpdateRectangleを小さいパケットに分割し送信を行うよう実装した。
\end{abstract}

\maketitle


\section{画面配信ソフトウェアTreeVNCの活用}

%% 現代の講義や発表、LTなどではPC画面で用意した資料をプロジェクタに移しながら進行することが多い。ゼミでは発表者を交代する際に、PC画面の切り替えを行う必要がある。

%% その場合、発表者のPCを接続するたびにケーブルを差し替える必要がある。発表者のPCによっては接続するアダプターの種類や解像度の設定により、正常にPC画面を表示できない場合がある。また、参加者もプロジェクタに集中を割く必要があり、同時に手元のPCで作業を行う場合集中の妨げとなってしまう。

最近のコロナ禍などの社会情勢によりリモートワークの重要性が高まっている。リモートワークではビデオ通話を行いながら自宅で仕事をすることになるが、PCの画面共有を利用して情報を共有することも多い。

ビデオ通話ソフトウェアの1つにZoomがある。Zoomはカメラを利用したビデオ通話に重点を置いて開発されているため、送信される画像に対してある程度のロスを許容して圧縮が行われている。そのためPC画面を共有した際に書類の文字がはっきり見えないということが発生する。またビデオ通話には、Zoomが管理するデータセンターにあるサーバを経由して通信を行っている。

当研究室で開発している画面配信システムTreeVNC\cite{taninari:2011a}は、発表者の画面を参加者のPC画面に表示するソフトウェアである。画面共有に特化しており、共有するPC画面をロスなく圧縮しデータを送信することが可能である。
TreeVNC は木構造型のオーバーレイネットワークを動的にLANまたはWAN上に構成し、画面共有に参加しているPC同士でのP2P型の通信を行う。これにより、データセンター上の強力なサーバやネットワークを要求せずに配信を可能にしている。

%そのため、参加者は不自由なく手元のPCを操作しながら講義を受けることが可能になる。さらに、発表者の交代もケーブルの差し替えを行わずに、全体に共有する画面の切り替えが可能となっている。

しかし、オーバーレイネットワークは無線LAN接続では共有された通信帯域を消費してしまう。有線の場合はネットワークスイッチの容量が十分に大きければ問題にならないが、
LAN/WAN/WifiでMulticast通信がサポートされていれば、それを使うことが望ましい。
本研究では、TreeVNC のMulticast通信の実装を行い実際の動作確認を行う。

\section{TreeVNCの基本概念}
Virtual Network Computing\cite{vnc}(以下VNC)は、サーバ側とクライアント(ビューワー)側からなるリモートデスクトップソフトウェアである。遠隔操作にはサーバを起動し、クライアント側がサーバに接続することで可能としている。また、動作にはRFBプロトコルを用いている。

Remote Frame Bufferプロトコル\cite{rfbprotocol}(以下RFB)とはVNC上で使用される、自身のPC画面をネットワーク上に送信し、他人のPC画面に表示を行うプロトコルである。画面が表示されるユーザ側をRFBクライアントと呼び、画面送信を行うためにFrameBufferの更新が行われる側をRFBサーバと呼ぶ。

Framebufferとは、メモリ上に置かれた画像データのことである。RFBプロトコルでは、最初にプロトコルのバージョンの確認や認証が行われる。その後、RFBクライアントへ向けてFramebuffferの大きさやデスクトップに付けられた名前などが含まれている初期メッセージを送信する。

RFBサーバ側はFramebufferの更新が行われるたびに、RFBクライアントに対してFramebufferの変更部分を送信する。さらに、RFBクライアントからFramebuffer - UpdateRequestが来るとそれに答え返信する。変更部分のみを送信する理由は、更新があるたびに全画面を送信すると、送信するデータ面と更新にかかる時間面において効率が悪くなるからである。

TreeVNCはjavaを用いて作成されたTight VNC\cite{tightvnc}を元に作成されている。TreeVNCはVNCを利用して画面配信を行なっているが、従来のVNCでは配信(サーバ)側のPCに全ての参加者(クライアント)が接続するため負荷が大きくなってしまう(図\ref{fig:vncStruct})。
 
\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/vncStruct.pdf}
\caption{従来のVNCでの接続構造}
\label{fig:vncStruct}
\end{center}
\end{figure}

そこでTreeVNCではサーバに接続を行なってきたクライアントをバイナリツリー状(木構造)に接続する。接続してきたクライアントをノードとし、その下に新たなノードを最大2つ接続していく。これにより人数分のデータのコピーと送信の手間を分散することができる(図\ref{fig:TreevncStruct})。

\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/TreevncStruct.pdf}
\caption{TreeVNCでの接続構造}
\label{fig:TreevncStruct}
\end{center}
\end{figure}

通信の数は、送信されるデータは従来の方法だとN個のノードに対してN-1回必要である。これはバイナリツリー状の構造を持っているTreeVNCでも通信の数は変わらない。


バイナリツリー状に接続することで、N台のクライアントが接続を行なってきた場合、従来のVNCではサーバ側がN回のコピーを行なって画面配信する必要があるが、TreeVNCでは各ノードが最大2回ずつコピーするだけで画面配信が可能となる。

木構造のルートのノードをRoot Nodeと呼び、そこに接続されるノードをNodeと呼ぶ。Root Node は子Nodeにデータを渡す機能、各Nodeの管理、VNCサーバから送られてきたデータの管理を行なっている。各Nodeは、親Nodeから送られてきたデータを自身の子Nodeに渡す機能、子Nodeから送られてきたデータを親Nodeに渡す機能がある。

\section{MulticastQueue}
配信側の画面が更新されると、VNCサーバから画像データがFRAME\_BUFFER\_UPDATEメッセージとして送られる。その際、親Nodeが受け取った画像データを同時に複数の子Nodeに伝えるためにMulticastQueueというキューに画像データを格納する。

各NodeはMulticastQueueからデータを取得するスレッドを持つ。MulticastQueueは複数のスレッドから使用される。

\section{木の再構成}
TreeVNCはバイナリツリー状での接続のため、Nodeが切断されたことを検知できずにいると構成した木構造が崩れてしまい、新しいNodeを適切な場所に接続できなくなってしまう。そこで木構造を崩さないよう、Node同士の接続の再構成を行う必要がある。

TreeVNCの木構造のネットワークトポロジーはRoot Nodeが持っているnodeListで管理している。Nodeの接続が切れた場合、Root Nodeに切断を知らせなければならない。

TreeVNCはLOST\_CHILDというメッセージ通信で、Node切断の検知および木構造の再構成を行なっている。LOST\_CHILDの検出方法にはMulticastQueueを使用しており、ある一定時間MulticastQueueから画像データが取得されない場合、MemoryOverFlowを回避するためにTimeoutスレッドが用意されている。そして、Timeoutを検知した際にNodeとの接続が切れたと判断する。

\section{データの圧縮形式}
TreeVNCでは、ZRLEE\cite{taninari:2012a}というエンコード方法でデータの圧縮を行う。ZRLEEはRFBプロトコルで使用できるZRLEというエンコードタイプを元に生成される。

ZLRE(Zlib Run-Length Encoding)とは可逆圧縮可能なZlib形式\cite{zlib}とRun-Length Encoding方式を組み合わせたエンコードタイプである。

ZLREはZlibで圧縮されたデータとそのデータのバイト数がヘッダーとして付与され送信される。Zlibはjava.util.zip.deflaterとjava.util.zip.inflaterで圧縮と解凍が行える。しかしjava.util.zip.deflaterは解凍に必要な辞書を書き出す(flush)ことができない。従って、圧縮されたデータを途中から受け取ってもデータを正しく解凍することができない。

そこでZRLEEは一度Root Nodeで受け取ったZRLEのデータをunzipし、データをupdate rectangleと呼ばれる画面ごとのデータに辞書を付与してzipし直すことで、始めからデータを読み込んでいなくても解凍をできるようになっている(図\ref{fig:ZRLEtoZRLEE})。

\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[scale=0.5]{fig/EncodeZRLEtoZRLEE.pdf}
\caption{ZRLEEへ再圧縮されたデータを途中から受け取った場合}
\label{fig:ZRLEtoZRLEE}
\end{center}
\end{figure}

一度ZRLEEに変換してしまえば、子Nodeはそのデータをそのまま流すだけでよい。ただし、deflaterとinflaterでは前回までの通信で得た辞書をクリアしないといけないため、Root Node側とNode側では毎回新しく作る必要がある。辞書をクリアすることで短時間で解凍され画面描画されるという、適応圧縮を実現していることになり圧縮率は向上する。

\section{ShareMyScreen}
従来のVNCでは、配信者が交代するたびにVNCの再起動、サーバ・クライアント間の再接続を行う必要がある。TreeVNCでは配信者の切り替えのたびに生じる問題を解決している。

TreeVNCを立ち上げることでケーブルを使用せずに、各参加者の手元のPCに発表者の画面を共有することができる。画面の切り替えについてはユーザがVNCサーバへの再接続を行うことなく、ビューワー側のShere My Screenボタンを押すことで配信者の切り替えが可能となっている。

TreeVNCのROot Nodeは配信者のVNCサーバと通信を行なっている。VNCサーバから画面データを受信し、そのデータを子Nodeへと送信している。配信者切り替え時にShare Screenを実行すると、Root Nodeに対しSERVER\_CHANGE\_REQUESTというメッセージが送信される。このメッセージにはShare Screenボタンを押したNodeの番号やディスプレイ情報が付与されている。メッセージを受け取ったRoot Nodeは配信を希望しているNodeのVNCサーバと通信を始める。

\section{Multicastの利用}
現在のTreeVNCでは有線接続と無線LAN接続のどちらでも、VNCサーバから画面配信の提供を受けることが可能である。しかし無線LANの帯域は接続PC全部で共有されるために
オーバーレイネットワークを用いる場合は少数の台数の場合でしか実用的には動作しない。
WifiのMulticastの機能を用いればこの欠点を克服することができると考えられる。
Root Nodeは無線LANに対して変更するUpdate RectangleをMulticastで一度だけ送信すればよい。
Treeの構築には従来通りのオーバーレイネットワークを用いる。Root Node は複数のネットワーク毎に木構造とMulticastを管理することになる。
(図\ref{fig:coexistence})。このMulticastはネットワークがサポートしていればLAN/WAN/Wifiのそれぞれで有効であると思われる。

制御構造を木構造オーバーレイネットワークによって行うのは従来のコードを再利用できるのが主な理由でRootに直接接続する方法でも良い。

\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/coexistence.pdf}
\caption{接続方法の分割}
\label{fig:coexistence}
\end{center}
\end{figure}

WifiのMulticast Packetのサイズは64KBが最大となっている。4Kディスプレイと例にとると、画面更新には8MBの画素数 * 8Bの色情報となり、圧縮前で64MB程度となる。

\section{RFBのUpdateRectangleの構成}
\begin{table}[htp]
    \caption{UpdateRectangleによるPacketの構成}
    \begin{tabular}{|rrr|l|} \hline
        1 byte & & & messageID    \\
        1 byte & & & padding   \\
        2 byte & & & n of rectangles   \\ \hline
        & 2 byte & & U16 - x-position  \\
        & 2 byte & &  U16 - y-position  \\
        & 2 byte & &  U16 - width  \\
        & 2 byte & &  U16 - height  \\
        & 4 byte & &  S32 - encoding-type  \\
        & 4 byte & &  U32 datalengths   \\ \hline
        &  & 1 byte & subencoding of tile     \\
        &  & n byte & Run Length Encoded Tile \\ \hline
    \end{tabular}
    \label{tb:updateRectangle}
\end{table}

RFBのUpdate Rectangleによって送られてくるPacketは表\ref{tb:updateRectangle}のような構成となっている。

1つのUpdate Rectangleには複数のRectangleが入っており、さらに1つ1つのRectangleにはx,y座標や縦横幅、encoding typeが含まれているRectangle  Headerを持っている。ここではZRLEで圧縮されたRectangleが1つ、VNCサーバから送られてくる。Rectangleには、Zlib圧縮されたデータがdetalengthsと呼ばれる指定された長さだけ付いてくる。このデータは、画面を64x64のTileで構成できるように分割されている(図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle}中 Tile)。

\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/FrameUpdateRectangle.pdf}
\caption{Rectangleの分割}
\label{fig:BlockingUpdateRectangle}
\end{center}
\end{figure}

Tile内はパレットなどがある場合があるが、通常はRun Length encodeされたRGBデータである。
これまでのTreeVNCではVNCサーバから受け取ったRectangleを分割せずにZRLEEへ再構成を行なっていた。これをMulticastのためにデータを64KBに収まる最大3つのRectangleに再構成する。(図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle})。この時にTile内部は変更する必要はないが、Rectangleの構成は変わる。ZRLEを展開しつつ、Packetを構成する必要がある。

64KBのPacketの中には複数のTileが存在するが、連続してRectangleを構成する必要がある。3つのRectangleの構成を下記に示す。

\begin{itemize}
\item 行の途中から始まり、行の最後までを構成するRectangle(図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle}中 Phase0)
\item 行の初めから最後までを構成するRectangle(図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle}中 Phase1)
\item 行の初めから、行の途中までを構成するRectangle(図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle}中 Phase2)
\end{itemize}

\section{TileLoopの圧縮とブロッキング}
TileLoopはVNCサーバから受け取ったZRLEを図\ref{fig:BlockingUpdateRectangle}のようにRectangleを分割し、ZRLEEに再構成を行ったPacketを生成する。
通常では1画面全部を一つのUpdate Rectangleで送ることがあり、数Mbyteのパケットが生成されしまう。これを再圧縮を行いながら64kbyte以内の
Update Rectangleに分割する。個々のパケットは長方形の集合なので、分割されたパケットは1-3個の長方形を含むことになる。

以下の図\ref{fig:Packet}にTileLoopで生成されるPacket全体と、分割される各PhaseのRectangleを示した。
\begin{figure}[htb] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/Blocking.pdf}
\caption{ZRLEEのPacketの構成と分割されたRectangle}
\label{fig:Packet}
\end{center}
\end{figure}


Packet Headerには表\ref{tb:updateRectangle}に示したmessageID、padding、n of rectangleが核にのうされている。また、分割されたRectangleにはそれぞれ表\ref{tb:rectangleheader}に示したRectangle Headerを持っている。

\begin{table}[htp]
    \caption{Rectangle Headerの構成}
    \begin{center}
    \begin{tabular}{|rr|l|} \hline
         2 byte &  & U16 - x-position  \\
         2 byte &  & U16 - y-position  \\
         2 byte &  & U16 - width  \\
         2 byte &  & U16 - height  \\
         4 byte &  & S32 - encoding-type  \\
         4 byte &  & U32 datalengths   \\ \hline
        &   1 byte & subencoding of tile     \\
        &   n byte & Run Length Encoded Tile \\ \hline
    \end{tabular}
    \end{center}
    \label{tb:rectangleheader}
\end{table}

次にTileLoopの処理について説明する。
Code \ref{code:tileloop}はTileLoopの処理を大まかに抜粋したものである。

\lstinputlisting[caption=TileLoopの処理関数, label=code:tileloop]{src/decode.java}


Code \ref{code:tileloop}: 8 - 11行目はTileLoopの初期化でBlockingと構築するPacketの準備を行っている。Code \ref{code:tileloop}: 12行目からのLoopではZRLEで受け取ったRectangleを1Tile 64x64に分割し、1Tileずつ処理を行う。%そして受け取ったZRLEより処理を行うTileのデータを取得し、フェーズの確認と圧縮段階に入る。

TileLoopにはc1Rectと呼ばれるRectangleを持っている。これは読み込んだTile分だけ縦横を拡張していくことによってRectangleの再構成を行なっている(Code \ref{code:tileloop}: 15行目)。

Code \ref{code:tileloop}: 21行目では処理対象のTileのデータ圧縮とフェーズ確認を行う関数である。Code \ref{code:multicastput}はその関数の処理を大まかに抜粋したものである。

\lstinputlisting[caption=TileLoopの処理関数, label=code:multicastput]{src/multicastPut.java}


Code \ref{code:multicastput}: 2 - 19行目では、読み込んだTileのデータを圧縮用のStreamに格納し、java.util.zip.deflaterを利用して圧縮を行う。

java.util.zip.deflaterには下記の3種類の圧縮方法がある。

\begin{itemize}
\item NO\_FLUSH : Streamに格納されたデータを最効率で圧縮を行う。Streamにある入力データが規定量に満たない場合は圧縮されない
\item SYNC\_FLUSH : これまでにStreamに圧縮されたデータの圧縮を行う。ただし圧縮率が低下する可能性がある
\item FULL\_FLUSH : SYNC\_FLUSH同様、これまでにStreamに格納されたデータ圧縮を行う。異なる点はこれまでの辞書情報がリセットされるため、圧縮率が極端に低くなる可能性がある
\end{itemize}

Packetのサイズは62KBとしているが、一旦の制限として37KBまでを格納可能としている。これには理由があり、ZRLEとjava.util.zip.deflaterを使用した圧縮では、圧縮後のデータ長を予測することができない。
Packetが満杯になってしまうと、圧縮書き込みの途中であっても圧縮書き込みが中断する。
そのため、Packetサイズを余分に確保する必要がある。したがって最初から最大の62KBではなく、37KBに制限を行なっている。TileLoopではデータの圧縮にNO\_FLUSHを利用していたが、圧縮後のデータがPacketの上限である62KBを超えてしまうことが多発した。

これは圧縮されるための入力データの規定量が想定以上に多く、圧縮後のデータ長がMulticast Packetの上限を超えてしまったためである。そこで圧縮率は悪くなるが、確実にPacketに書き込まれるSYNC\_FLUSHを利用し、ZRLEEの生成を行う。

また圧縮は別スレッドで行われているため、圧縮が途中の段階で圧縮用Streamに新しい入力があった場合、先に格納されている入力は消えてしまう。そのために、Code \ref{code:multicastput}: 20行目でneedInput()がTrueになるまで待機する。

Code \ref{code:multicastput}: 21行目以降の処理はTileのフェーズ確認である。

Code \ref{code:multicastput}: 22 - 27行目は行の最後のTileだった場合の条件分岐である。図\ref{fig:Packet}中のflushに該当するTileであり、そこで圧縮されたデータとループ内で再構成を行っているc1Rectの情報をPacketへ書き込みを行う。ここでFULL\_FLUSHを行う理由は、次の行に移る際圧縮用のStreamにデータを残さないためである。また、この箇所でPhase2かどうかの判断も行っている。


Code \ref{code:multicastput}: 33、47行目ではPhase0、Phase1の確認と処理を行っている。どちらの処理も圧縮されたデータとc1Rectの情報をPacketに書き込み、次のPhaseのための初期化などを行っている。Packetへ書き込みが完了すると、子Nodeへの送信のためにPacketがMulticastQueueへ格納される。


%java.util.zip.deflaterを使用した圧縮では、Packetが一杯になってしまうと、圧縮書き出し中でも中断してしまう。そこでPacketの余剰分を解放し上限を60KBにすることで、確実に書き込みを可能とする。図\ref{fig:Packet}中Last Tileとは、Packetが一杯になった際に読み込まれているTileのことを指す。Last Tileは圧縮前で最大16KBと考えられる。これを圧縮すると3 - 4KB程度であるので、その分のマージンを持っていくことで、読み込んだ最後のTileまできちんとPacketに書き込むことができる。

以上のルーチンでVNCサーバから受け取ったZRLEをZLREEへと変換、Rectangleの再構成を行っている。


\section{Multicast用のシステム構成}

\begin{figure}[htp] %PDF
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm]{fig/ConnectMulticast.pdf}
\caption{Multicastのネットワークシステム}
\label{fig:connectMulticast}
\end{center}
\end{figure}

画面配信をMulticastに対応できるように図\ref{fig:connectMulticast}のようなシステムを構築した。
新しく接続しに来たクライアントはRoot Nodeに対してFind Root を送信する。Root Nodeが見つかれば、Root Nodeはこれに対してFind Root Replyを送り、hostとportについての情報をクライアントに知らせる(図\ref{fig:connectMulticast}中 1,2)。次のメッセージ通信で木構造のどのNodeを親とすれば良いかが決まる(図\ref{fig:connectMulticast}中 3,4)。木構造に接続する理由は、画面配信の初期メッセージを受け取るために行っている(図\ref{fig:connectMulticast}中 5,6)。初期メッセージを受け取った後は、Root NodeよりUpdate Rectangleを受け取ることでMulticastにおける画面配信を可能としている(図\ref{fig:connectMulticast}中 7)。

\section{実装の現状}

理論上はWifi接続で画面配信が可能であったが、いくつかの問題が発生していることがわかった。
まず IPv4とIPv6の両方でMulticastを行うことはできない。Javaのlibraryのレベルで失敗してしまう。
IPv4のMulticastではクライアントが1台のみしか接続できない状況となった。
IPv6ではMulticast実装は必須なので状況が改善する可能性がある。また、これはWifi Stationの制限である可能性もある。
接続しているPC上では有線と同等の性能を発揮することができ、Blocking による遅延も数秒程度であった。また、パケット落ちもほとんど見られなかった。

Multicast実装は有線上でも有効であると考えられるが、コロナ禍下で大学での実験に制約があり、十分な測定ができていない。

\section{まとめ}

今回の実装では、Wifiにデータを乗せるためのパケット分割を行うBlockingと、Multicastを行うためのオーバーレイネットワークの実装を行なった。

実装によりMulticastで実用的に画面配信が可能であると推測されるが、まだ、接続が限られるなどの問題があり解決されていない。

現在TreeVNCはPC画面のみ配信をすることが可能であるが、音声を送信することも可能である。その場合、画面よりも音声の方がデータ量少ないため、Multicastでも送信することは可能である。



\nocite{*}
\bibliographystyle{ipsjunsrt}
\bibliography{riono-sigos}

\end{document}